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学会雑誌抄録

『日本甲状腺学会雑誌』2011年4月号(Vol.2 No.1)

[特集1]甲状腺検査の最近の進歩

日常診療における遺伝子異常:どのような患者で遺伝子診断を施行すべきか?

[特集2]甲状腺ホルモン代謝:最近の進歩

低T3症候群:血中T3濃度が低下するメカニズム

[症例報告]

伝染性単核球症に伴って発症したバセドウ病の3例

[特集1]甲状腺検査の最近の進歩

日常診療における遺伝子異常:どのような患者で遺伝子診断を施行すべきか?

菱沼 昭

* 獨協医科大学感染制御・臨床検査医学

Key words
遺伝子診断(genetic testing),遺伝子異常症(genetic disease),変異(mutation),
遺伝子型(genotype),表現型(phenotype)

要旨
日常診療において遺伝子異常は見逃されていることが多い。先天性甲状腺機能低下症は 3,000人に1人とマススクリーニングで見つかる疾患の中でも頻度が高い。そのうち15%はホルモン合成障害で遺伝子異常によるものである。残りの85%にも転写因子の異常等が見つかっている。また,成人の甲状腺腫患者も遺伝子異常であることがある。この総説では,日本人に認められる遺伝子異常を中心にまとめてあるので,日常診療を行う上で手引きにしていただきたい。

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[特集2]甲状腺ホルモン代謝:最近の進歩

低T3症候群:血中T3濃度が低下するメカニズム

村上 正巳

*群馬大学大学院医学系研究科臨床検査医学

Key words
低T3 症候群(low T3 syndrome),非甲状腺疾患(non-thyroidal illness),甲状腺ホルモン(thyroid hormone),
甲状腺ホルモン脱ヨード酵素(iododthyronine deiodinase),サイロキシン結合グロブリン(thyroxine-binding globulin)

要旨
甲状腺自体には異常がないものの,さまざまな疾患や病態で血中甲状腺ホルモン濃度が異常値を示すことは少なくない。低栄養状態,消耗性疾患,感染症,悪性腫瘍,代謝性疾患,腎不全,心筋梗塞などの急性あるいは慢性の疾患において,血中3,5,3’-triiodothyronine(T3)濃度の低下がみられることが多い。時にサイロキシン(thyroxine:T4)濃度の低下や甲状腺刺激ホルモン(thyrotropin, TSH)濃度の低下がみられることもある。このような病態を低T3症候群,euthyroid sick syndrome,非甲状腺疾患(non-thyroidal illness)と呼ぶ 1)

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[症例報告]

伝染性単核球症に伴って発症したバセドウ病の3例

宮下 和也

*宮下クリニック 甲状腺センター

Key words
バセドウ病(Graves’disease),伝染性単核球症(infectious mononucleosis),EBウイルス(Epstein-Barr virus)

要旨
EBウイルス(Epstein-Barr virus)は,種々の自己免疫疾患の発症に関与することが報告されているが,バセドウ病との関連は明らかにされていない。今回,EBウイルスによる伝染性単核球症の経過観察中にバセドウ病を発症した症例を3例経験した。症例1は16歳女性,症例2は18歳男性,症例3は15歳女性。いずれも発熱と咽頭痛を主訴に受診。上眼瞼の紅斑,頚部リンパ節腫脹,口蓋扁桃の発赤腫脹と偽膜を認めた。リンパ球増多・異型リンパ球・肝機能障害・EBウイルス抗VCA-IgM抗体高値を認め,EBウイルスによる伝染性単核球症と診断した。症例1のみ口蓋扁桃からA群β溶血性レンサ球菌が同定され,マクロライド系抗生剤を投与した。第28~45病日から発汗過多・動悸・手指振戦が出現した。超音波検査でびまん性甲状腺腫と甲状腺全体の血流増加を認め,甲状腺中毒症とTRAb-human高値を示し,バセドウ病による甲状腺機能亢進症と診断した。バセドウ病発症にEBウイルス感染が関与することを示唆する貴重な症例と考えられた。

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