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学会雑誌抄録

『日本甲状腺学会雑誌』 2015年4月号(Vol.6 No.1)

[特集1]Basedow病の無機ヨウ素治療を再考する

Basedow病の無機ヨウ素治療の機序

Basedow病におけるヨウ化カリウム治療

中等症から重症Basedow病のメチマゾール15 mgと無機ヨウ素38 mg併用療法

軽症Basedow病に対する無機ヨウ素治療

[特集2]甲状腺癌:臨床医が今知っておかなければならないこと

微小乳頭癌の取り扱い

甲状腺癌の分子標的治療

甲状腺濾胞癌の病理診断はどの程度信頼できるのか?─臨床医の立場から─

濾胞癌の診断はどの程度信頼できるのか ─ 病理医の立場から ─

[Original Article]

The Long-term Stability of Levothyroxine Sodium Injections Prepared in a Hospital

[症例報告]

新生児中枢性甲状腺機能低下症を契機に診断に至った母体Basedow病の一例

131 I 内用療法後に有痛性筋痙攣を繰り返したBasedow 病の一例

過成長,骨年齢促進を呈した乳幼児期発症Basedow 病の2例

シリーズ[ちょっとした疑問]

妊娠初期の一過性甲状腺機能亢進症は胎盤由来のhCG によって引き起こされると考えられています。不妊治療の採卵ではhCG で卵巣を刺激しますが,このときhCG で刺激するにもかかわらずTSH が上昇するのはなぜでしょうか?

[特集1]Basedow病の無機ヨウ素治療を再考する

Basedow病の無機ヨウ素治療の機序

長瀧 重信
長崎大学/放射線影響協会/伊藤病院

Key words
◉ 無機ヨウ素治療(treatment with stable iodine),◉ ホルモン分泌抑制(inhibition of hormone secretion),◉ Wolff-Chaikoff effectとの違い(comparison between Wolff-Chaikoff effect and the effects of stable iodine in Graves’ disease),◉ Escape(escape from acute effects of stable iodine),◉ 無機ヨウ素と抗甲状腺薬の併用療法(combined therapy of stable iodine and anti-thyroid drugs)

要旨
Basedow病の無機ヨウ素治療は1923年のMayo ClinicのPlummerの発表以来,世界中に広まった。ヨウ素の単独治療の臨床経験は投与量の検討も含めて1950~1970年代に完成し,放射性ヨウ素を使用しての患者のヨウ素代謝は,当時の多くの著名な研究者が競って研究し,無機ヨウ素治療は,初期には甲状腺からのホルモンの分泌を抑制すること,しかし,投与された無機ヨウ素が甲状腺に摂取され,有機化される量は増加していることが明らかにされた。その後,患者に放射性物質を投与して研究することの規制が世界中に広がり,臨床研究はほとんど中止されたままである。最近,わが国では無機ヨウ素と抗甲状腺薬の併用療法が行われ,その成果が国際誌にも発表されている。筆者は,タイトルの「Basedow病の無機ヨウ素治療の機序」という点に関し,基礎医学の最新の知識に基づいた日本からの研究の発展を願ってこの稿を書かせていただいた。

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Basedow病におけるヨウ化カリウム治療

岡村 建,萬代 幸子,藤川 潤,佐藤 薫,北園 孝成
九州大学大学院医学研究院病態機能内科学(第二内科)内分泌研究室

Key words
◉ ヨード(iodide),◉ Basedow病(Graves’ disease),◉ 抗甲状腺薬(antithyroid drug)

要旨
Basedow病の治療としてわが国ではチオナマイド系薬が主流であるが,副作用が多い。胎児の催奇形性も問題となる。チオナマイド系薬に副作用を生じた症例でヨウ化カリウム(KI)療法を行うと,66%の症例で機能が正常化し(KI感受性群),8年以上長期経過観察を続けるとその59%が甲状腺腫縮小,TSH受容体抗体が陰性化して寛解に至った。KIは副作用の心配が少ないのが特徴である。KIのみで正常化できなくても(KI抵抗群),その約半数は初期に少量のチオナマイド系薬を併用してコントロールできると,その後はKIのみで良好に寛解に至った。KI抵抗性の難治例は通常のアイソトープ(RI)療法で改善できた。わが国でもRI療法がもっと普及してよいが,KI療法も一つの選択になる可能性が示唆された。「KI or RI」の考えでチオナマイド系薬の使用量を減量できるであろう。しかし,KIの効果を事前に予測することは困難であった。

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中等症から重症Basedow病のメチマゾール15 mgと無機ヨウ素38 mg併用療法

佐藤 尚太郎
昭和大学藤が丘病院 内分泌代謝科

Key words
◉ Basedow病(Graves’ disease),◉ メチマゾール(methimazole),◉ 無機ヨウ素(inorganic iodine),◉ 効果(therapeutic effect・adverse effect),◉ 寛解(remission)

要旨
中等症以上の未治療Basedow病(GD)に対しては,治療効果の面ではメチマゾール(MMI)高用量が推奨されるが,副作用が懸念される。この問題に対しMMI低用量での初期治療効果の不足を無機ヨウ素(KI)併用で補ったMMI 15 mg+KI 38 mg/日(M15+I)を提案し,治療効果,有害事象,寛解率についてMMI 30 mg/日(M30)治療を対象として評価した。未治療時FT4が5 ng/dL以上のGD 310例を無作為に2群に割付け,前向きに検討した。治療開始1,2ヵ月後にFT4が基準値内へ改善する割合(%)はM15+I群で有意に高く(M15+I群:45.3%・73.9%,M30群:24.8%・63.1%,p=0.0001,p=0.0399),有害事象はM15+I群で有意に低かった(7.4% vs. 14.7%,p=0.0396)。寛解率は2群で有意差は認めなかった(p=0.23)。M15+Iは治療効果,有害事象の点で優れ寛解率へ影響せず,有用な治療法と考えられた。

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軽症Basedow病に対する無機ヨウ素治療

内田 豊義
順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学

Key words
◉ 無機ヨウ素(inorganic iodine),◉ メチマゾール(methimazole),◉ 軽症Basedow病(mild Graves’ disease),◉ 後ろ向き検討(retrospective study)

要旨
Basedow病における無機ヨウ素(KI)治療の有用性に関しては,短期的には有用である症例が多いが,長期的な効果に関しては詳細に検討されていない。KIとの甲状腺中毒症に対する長期的な効果に関してメチマゾール(MMI)と比較検討した。未治療の軽症Basedow病(FT4 2.5 ng/dL程度)に限っていえば,KI単独治療はMMI単独治療と同等の甲状腺ホルモン改善効果とTRAb低下を認めた。このことは,軽症バセドウ病においてKI単独治療が初期治療の選択肢になり得る可能性を示唆している。

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[特集2]甲状腺癌:臨床医が今知っておかなければならないこと

微小乳頭癌の取り扱い

宮内 昭*1,伊藤 康弘*1,2
*1:医療法人神甲会隈病院外科,*2:医療法人神甲会隈病院治験・臨床試験管理センター

Key words
◉ 甲状腺微小乳頭癌(papillary microcarcinoma of thyroid),◉ 非手術経過観察(active surveillance),◉ 腫瘍進行(tumor progression),◉ 甲状腺癌頻度(thyroid cancer incidence),◉ 年齢(age)

要旨
最近,世界的に甲状腺癌が急増している。増加しているのは小さい乳頭癌であり,これは種々の画像検査の普及による発見の増加によるものである。剖検研究では甲状腺に高率に癌が認められる。超音波検査と細胞診を用いると,微小乳頭癌は容易に発見診断される。過剰診断・過剰治療が問題となっている。われわれは1993年以来,世界で初めて低リスク微小乳頭癌に対して非手術経過観察臨床試験を行ってきた。1,235症例の平均75ヵ月の観察において,3 mm以上の腫瘍の増大は10年で8.0%,リンパ節転移出現は3.8%であった。経過観察後に手術を施行した症例で,再発は残存甲状腺に微小癌が発生した1例のみであった。遠隔遠位,腫瘍死はなかった。予想とは逆に,60歳以上の高齢者のほうが腫瘍の増大,リンパ節転移の出現率は低かった。40歳未満の若年成人にこれらがやや高率であったが,若年者は術後予後良好であるので,中高齢者と同様に経過観察の対象としてよい。現在では,低リスク微小乳頭癌に対する臨床的取り扱いとして非手術経過観察が第一選択であると考える。

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甲状腺癌の分子標的治療

下方 智也*1,安藤 雄一*2
*1:名古屋大学大学院医学系研究科がん薬物療法学,*2:名古屋大学医学部附属病院化学療法部

Key words
◉ 甲状腺癌(thyroid cancer),◉ 分子標的治療(molecular targeted therapy),◉ ソラフェニブ(sorafenib),◉ レンバチニブ(lenvatinib)

要旨
進行甲状腺癌に対する有効な抗がん薬はほとんどなかったが,甲状腺癌の遺伝的背景が解明され始め,腫瘍増殖や血管新生を阻害する分子標的薬が開発されてきたことから,甲状腺癌の薬物療法は急速に変化しつつある。第Ⅲ相試験にて,ソラフェニブおよびレンバチニブはプラセボに対し無増悪生存期間を有意に延長した。その結果,2014年にソラフェニブが分化型甲状腺癌に対し承認され,2015年にはレンバチニブが甲状腺癌に対し承認された。しかし,これらの分子標的薬の治療適応の判断には疾患の深い理解と癌薬物療法の高い専門性が不可欠であり,また,有害事象は手掌・足底発赤知覚不全症候群(手足症候群)など従来の殺細胞性抗がん薬のそれとは大きく異なる。したがって,診療科の枠を超えたチーム医療が重要であり,「甲状腺癌診療連携プログラム」によって診療連携が促進され,適切な治療がなされることが期待される。

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甲状腺濾胞癌の病理診断はどの程度信頼できるのか?─臨床医の立場から─

杉野 公則*1,亀山 香織*2,伊藤 公一*1
*1:伊藤病院外科,*2:慶應義塾大学病院病理診断部

Key words
◉ 甲状腺濾胞癌(follicular thyroid carcinoma),◉ 濾胞性腫瘍(follicular thyroid tumor),
◉ 手術適応(surgicalindication),◉ 予後因子(prognostic factor),◉ 遠隔転移(distant metastasis)

要旨
甲状腺癌の診断は,最終的に病理診断に基づくことは論をまたない。しかし,濾胞癌においては病理医により診断が異なる可能性があるという。術前診断から病理診断まで不確実性に満ちた本疾患に対して,臨床側として確実な対処方法は見当たらない。
当院で心がけていることは以下の3点である。

濾胞癌を診断するのではなく,濾胞性腫瘍を見逃さない努力をすること。完全とはいえないが,超音波検査と細胞診を組み合わせて対処する。
本疾患の予後因子を含めた生物学的振る舞いをよく知ること。当院では浸潤形式,年齢,腫瘍径に重きをおいて治療方針の参考にしている。
病理診断が良性であっても経過観察していくこと。本疾患の診断が脆弱なものであることを患者によく説明しておくことが肝要である。
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濾胞癌の診断はどの程度信頼できるのか ─ 病理医の立場から ─

廣川 満良
隈病院病理診断科

Key words
◉ 濾胞癌(follicular carcinoma),◉ 病理診断(pathology),◉ オブザーバーバリエーション(observer variation),
◉ 被膜浸潤(capsular invasion)

要旨
濾胞癌は濾胞上皮への分化を示し,乳頭癌の特徴的核所見を有さない悪性腫瘍で,基本的増殖パターンは濾胞状である。悪性基準は,被膜浸潤,脈管浸潤,転移のいずれかが組織学的に確認されることである。この診断基準は良性腫瘍を濾胞腺腫,悪性腫瘍を濾胞癌と診断しているのではなく,転移の可能性がきわめて低い腫瘍を濾胞腺腫,被膜や脈管に浸潤している悪性腫瘍を濾胞癌としていると解釈できる。現実的に濾胞癌の診断不一致率は非常に高く,その原因の多くは被膜浸潤の判定にある。診断不一致の対応策としては,境界悪性の概念を導入することを提案したい。

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[Original Article]

The Long-term Stability of Levothyroxine Sodium Injections Prepared in a Hospital

Mitsuru Ito, Akira Miyauchi, Chie Kawamoto, Masumi Mineo, Naoki Yamao, Shinji Morita, Chisato Kashimoto, Masako Kurahashi, Hirotoshi Nakamura, Nobuyuki Amino
Kuma Hospital

Key words
◉ Levothyroxine sodium injections, ◉ Hypothyroidism, ◉ Myxedema coma

Abstract
Thyroid hormone is generally administered orally to hypothyroid patients. For patients who are unable to take drugs orally, thyroid hormone should be administered parenterally. The Japan Thyroid Association is considering the promotion of the regular stock of levothyroxine sodium (LT4) injections for these patients and patients with myxedema coma. The injections are not supplied commercially in Japan, and cost of importing them from abroad is expensive. Although LT4 injections prepared in a hospital have a cost advantage, it is necessary to evaluate their stability before promoting their use. To study the stability of LT4 injections prepared in a hospital over time, we analyzed the residual ratios of levothyroxine in the LT4 injections stored under various conditions. We found that the T4 residual ratio (T4 concentration) at 3, 6, 12, and 48 months following storage at 5℃ were 98%, 94%, 84%, and 69%, respectively. We also compared three conditions, frozen (-20℃), refrigeration (5℃), and room temperature (25℃), and we observed that frozen storage maintained the LT4 concentration the best. Our results indicate that with refrigeration or frozen storage, LT4 injections prepared in a hospital can maintain a satisfactory T4 concentration for over 2 years.

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[症例報告]

新生児中枢性甲状腺機能低下症を契機に診断に至った母体Basedow病の一例

橋詰 真衣*1,藤本 陽子*2,磯山 恵一*2,杉澤 千穂*1,佐藤 尚太郎*1,大塚 史子*1,谷山 松雄*1

Key words
◉ 新生児一過性中枢性甲状腺機能低下症(neonatal transient central hypothyroidism),◉ Basedow病(Graves’ disease),◉ 新生児マススクリーニング(neonatal mass screening),◉ 妊娠(pregnancy)

要旨
新生児甲状腺機能低下症の1つとして,母親の甲状腺中毒症により胎児のTSH分泌が抑制されて起こる,新生児一過性中枢性甲状腺機能低下症が知られている。今回,母親の甲状腺機能異常が気付かれずに出産に至り,産後,児の中枢性甲状腺機能低下症を契機に未発見のBasedow病を診断し得た。神奈川県ではFT4とTSHの同時測定によって新生児マススクリーニングを施行しているため,本症例を発見することができた。FT4を用いない新生児マススクリーニングでは中枢性甲状腺機能低下症は見逃されてしまうが,甲状腺機能低下が一過性であっても中枢神経系の発達を考えると無視できず,確実に捕捉し治療につなげることが必要と考えられる。今後,全国的にFT4とTSHの同時測定が一般的となることが望ましい。

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131I 内用療法後に有痛性筋痙攣を繰り返したBasedow 病の一例

垣田 真以子*1,中尾 佳奈子*1,難波 多挙*1,小笠原 辰樹*1,廣田 圭昭*1,横田美紀*1
中谷 理恵子*1,立木 美香*1,臼井 健*2,成瀬 光栄*2,島津 章*2,田上 哲也*1,2
*1:国立病院機構京都医療センター内分泌・代謝内科,*2:国立病院機構京都医療センター臨床研究センター

Key words
◉ Basedow病(Graves’ disease),◉ 131I内用療法(radioiodine therapy),◉ 低Ca血症(hypocalcemia),◉ ハングリーボーン症候群(hungry bone syndrome),◉ ビタミンD欠乏(vitamin D deficiency)

要旨
Basedow病の治療中に低カルシウム(Ca)血症が遷延し,有痛性筋痙攣を認めた症例を経験した。症例は27歳女性。他院でBasedow病と診断され,チアマゾール(MMI)で治療が開始されたが,全身の筋肉痛と腓返りが出現したため投薬中止となった。当院に紹介受診後,プロピルチオウラシル(PTU)に変更したが同様の症状の出現があり,131I内用療法を施行した。しかし,治療後に三度有痛性の筋痙攣が出現した。血液検査では新たに低Ca血症を認め,intact PTHは239pg/mLと高値で,25(OH)ビタミンDは13.2ng/mLと低値であった。低Ca血症の原因として,131I内用療法後のハングリーボーン症候群に加え,ビタミンD摂取不足の合併が考えられた。乳酸Caとアルファカルシドールを開始し,Caの正常化に伴って有痛性筋痙攣は消失した。Basedow病患者では高頻度にビタミンD欠乏を合併すると報告されており,本症例も131I内用療法後のハングリーボーン症候群により低Ca血症が顕在化した啓蒙すべき症例と考え,報告する。

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過成長,骨年齢促進を呈した乳幼児期発症Basedow 病の2例

佐々木 直*1,楡井 淳*2,佐藤 英利*1,小川 洋平*1,伊藤 末志*2,長崎 啓祐*1
*1:新潟大学医歯学総合病院小児科,*2:鶴岡市立荘内病院小児科

Key words
◉ 過成長(over growth),◉ 骨年齢促進( advanced bone age),◉ Basedow病(Graves’ disease),
◉ 多腺性自己免疫症候群3型(autoimmune polyendocrine syndrome type 3)

要旨
【背景】小児期発症Basedow病は思春期以降に多く,乳幼児期の報告は非常に少ない。成人期にもみられる甲状腺腫,振戦,眼球突出などの症状以外に,小児期では学力低下,多動,過成長などが知られている。過成長,骨年齢促進を呈した乳幼児期発症Basedow病の2例を報告する。【症例1】3歳0ヵ月女児。機会受診で尿糖陽性が判明し,随時血糖216mg/dLのため糖尿病疑いで紹介受診した。身長107.3cm(+4.4 SD),体重17.0kg(肥満度-4.5%)。甲状腺腫大,手指振戦あり,眼球突出なし。骨年齢は6.2歳(J-RUS)と著明に促進していた。FT3 6.3pg/mL,FT4 2.3ng/dL,TSH<0.01µIU/mL,HbA1c 6.7%,TRAbとGADAb強陽性から1型糖尿病およびBasedow病と診断した。2歳頃から成長率促進がみられていた。【症例2】2歳10ヵ月女児。成長率増加と眼球突出を指摘され受診。身長102.5cm(+3.1 SD),体重17.0kg(肥満度+4.8%)。両側眼球突出,甲状腺腫大,手指振戦あり。骨年齢は5.7歳と著明に促進していた。FT3 21.7pg/mL,FT4 5.7ng/dL,TSH<0.003µIU/mL,TRAb陽性からBasedow病と診断した。【結語】乳幼児期発症のBasedow病では,著明な過成長や骨年齢促進が診断の契機となりうる。

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シリーズ[ちょっとした疑問]

妊娠初期の一過性甲状腺機能亢進症は胎盤由来のhCG によって引き起こされると考えられています。不妊治療の採卵ではhCG で卵巣を刺激しますが,このときhCG で刺激するにもかかわらずTSH が上昇するのはなぜでしょうか?

浜田 昇*1,森 梨沙*2,岡本 泰之*3,福田 愛作*2
*1:一般社団法人すみれ甲状腺グループ,*2:IVF大阪クリニック,*3:すみれクリニック

Key words
◉ 体外受精(in vitro fertilization),◉ 調節卵巣刺激(controlled ovarian hyperstimulation:COH),
◉ 甲状腺刺激ホルモン(TSH),◉ サイロキシン結合グロブリン(TBG),◉ ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)

要旨
不妊症に対する体外受精では,まず複数の卵胞を発育させるためゴナドトロピン(FSH/hMG)が投与され,それによって血中エストロゲンが上昇し,血中サイロキシン結合グロブリン(TBG)濃度上昇をもたらす。その結果,FT4の低下を起こし,TSHは上昇すると考えられる。採卵36時間前にhCGが用いられるが,その投与は1度だけで,妊娠初期に比較して,明らかにhCGの血中濃度は低く持続も短い。すなわち,採卵時に卵巣刺激に引き続いて用いられるhCG投与は,TBG増加のためのFT4 量の減少を埋め合わせするには量的にも時間的にも少なすぎるということである。

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