- HOME
- > 医師・医療関係の皆さまのページ
- > 診断ガイドライン
- > 甲状腺疾患診断ガイドライン2024
本ガイドラインは、あらたな知見が得られたときなど、修正の必要が生じた場合に、理事会の承認を得たうえで適宜改定される。
令和4年6月2日
日本甲状腺学会
理事長 菱沼 昭
甲状腺疾患診断ガイドライン2024 (2024年11月21日 改定)
バセドウ病の診断ガイドライン
【定義】(コンセンサス)
バセドウ病は、TSH(thyroid stimulating hormone, thyrotropin)受容体に対する刺激型の自己抗体(TRAb:thyrotropin receptor antibody)の発現により、甲状腺ホルモンの産生と分泌が亢進する自己免疫性甲状腺機能亢進症である。
【特記事項】
甲状腺眼症の主な原因疾患である。
- 診断基準(コンセンサス)
- 【臨床所見】
- 1.
- 頻脈、体重減少、手指振戦、発汗増加などの甲状腺中毒症所見
- 2.
- びまん性甲状腺腫大
- 3.
- 眼球突出または特有の眼症状
- 【検査所見】
- 1.
- 遊離T4、遊離T3のいずれか一方または両方高値
- 2.
- TSH低値
- 3.
- 抗TSH受容体抗体(TRAb)陽性、または甲状腺刺激抗体(TSAb)陽性
- 4.
- 放射性ヨウ素(またはテクネシウム)甲状腺摂取率高値(または正常)、シンチグラフィでびまん性
診断
【確実例】
臨床所見の1つ以上に加えて、検査所見の4つを有するもの
【準確実例】
臨床所見の1つ以上に加えて、検査所見の1、2、3を有するもの。
【疑い例】
臨床所見の1つ以上に加えて、検査所見の1と2を有し、遊離T4、遊離T3高値が3ヶ月以上続くもの
- 【付記】
- (臨床所見について)
- 1.
- 眼症状がありTRAbまたはTSAbが陽性であるが、遊離T4およびTSHが基準範囲内の例をeuthyroid Graves病、甲状腺機能が低下している例をhypothyroid Graves病という。
- 2.
- 限局性前脛骨粘液水腫(localized pretibial myxedema)を合併することがある。
- 3.
- 高齢者の場合、臨床症状が乏しく、甲状腺腫が明らかでないことが多いので注意をする。
- 4.
- 小児では学力低下、身長促進、落ち着きの無さなどを認めることが多い。
- (検査所見について)
- 5.
- コレステロール低値、アルカリホスファターゼ高値を示すことが多い。
- 6.
- 遊離T4正常で遊離T3のみが高値の場合がある。
- 7.
- TSHは感度以下のことが多い。
- 8.
- 放射性ヨウ素(またはテクネシウム)甲状腺摂取率は、軽症例では基準値内にとどまることがある。
- (鑑別診断について)
- 9.
- 遊離T3(pg/ml)/遊離T4(ng/dl) 比の高値は無痛性甲状腺炎の除外の参考となる。
- 10.
- 無痛性甲状腺炎でもTRAbが弱陽性を示すことがある。
- 11.
- 甲状腺血流増加・尿中ヨウ素の低下が無痛性甲状腺炎との鑑別に有用である。
- 12.
- 結節が併存している場合は機能性結節の可能性を考慮する。
- 13.
- TRAb・TSAbがともに陰性でシンチグラフィでびまん性取り込みを認める場合は非自己免疫性甲状腺機能亢進症の可能性を考慮する。
甲状腺機能低下症の診断ガイドライン
【定義】(コンセンサス)
甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンの産生と分泌が低下し、血中甲状腺ホルモン濃度が減少する病態である。
【特記事項】
甲状腺が原因のものを原発性甲状腺機能低下症、視床下部や下垂体が原因のものを中枢性甲状腺機能低下症という。
原発性先天性甲状腺機能低下症は、胎⽣期または周産期に⽣じた甲状腺の形態または機能異常による先天的な甲状腺ホルモン分泌不全の総称である。
【原発性甲状腺機能低下症】
診断基準(コンセンサス)
【臨床所見】
無気力、易疲労感、眼瞼浮腫、寒がり、体重増加、動作緩慢、嗜眠、記憶力低下、便秘、嗄声のうちいずれかの症状
【検査所見】
遊離T4低値(参考として遊離T3低値)およびTSH高値
診断
【確実例】
臨床所見および検査所見を有するもの
- 【付記】
- (臨床所見について)
- 1.
- ヨウ素摂取過多や出産後などの場合は一過性甲状腺機能低下症の可能性が高い。
- 2.
- 小児では成長障害や甲状腺腫を認める。
- (検査所見について)
- 3.
- コレステロール高値、クレアチンキナーゼ高値を示すことが多い。
- 4.
- 慢性甲状腺炎(橋本病)が原因の場合、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)または抗サイログロブリン抗体(TgAb)陽性となる。
- 5.
- 阻害型抗TSH受容体抗体により本症が発生することがある。
【中枢性甲状腺機能低下症】
診断基準(コンセンサス)
【臨床所見】
無気力、易疲労感、眼瞼浮腫、寒がり、体重増加、動作緩慢、嗜眠、記憶力低下、便秘、嗄声のうちいずれかの症状
【検査所見】
遊離T4低値でTSHが低値~基準範囲内
診断
【確実例】
除外規定を満たし、臨床所見および検査所見を有するもの
【除外規定】
甲状腺中毒症(甲状腺炎)の回復期、重症疾患合併例、TSHを低下させる薬剤(ドーパミン,ドブタミン,副腎皮質ホルモン(グルココルチコイド,酢酸オクトレオチド,ベキサロテンなど)の服用例を除く。
- 【付記】
- (検査所見について)
- 1.
- 中枢性甲状腺機能低下症の診断では下垂体ホルモン分泌刺激試験や画像検査が必要であり、専門医への紹介が望ましい。
- 2.
- 視床下部性甲状腺機能低下症ではTSH値が10μU/ml位まで逆に高値を示すことがある。
- (鑑別診断について)
- 3.
- 重症消耗性疾患にともなうNonthyroidal illness(低T3症候群)で、遊離T3、さらに遊離T4、さらに重症ではTSHも低値となり、鑑別を要する。
(原発性先天性甲状腺機能低下症(CH)について)
- 4.
- 永続性CHが多いが、⼀過性CHも存在する。いずれにおいても、甲状腺機能低下状態の場合、治療が最優先される。
- 5.
- サブクリニカルCHを定義する⼀定の合意は得られていない。特に、新⽣児期にはその後甲状腺機能低下が急速に顕在化することもあるので、サブクリニカルCHと定義することは困難である。
無痛性甲状腺炎の診断ガイドライン
【定義】(コンセンサス)
無痛性甲状腺炎は、無痛性の破壊性甲状腺炎による甲状腺中毒症である。
【特記事項】
自己免疫機序が示唆されている。
慢性甲状腺炎(橋本病)や寛解バセドウ病の経過中に発症する。
通常は約3ヶ月以内に甲状腺中毒症は自然に改善する。
回復期に甲状腺機能低下症になることが多く、少数は永続性の甲状腺機能低下症になる。
出産後数ヶ月でしばしば発症する。
- 診断基準(コンセンサス)
- 【臨床所見】
- 1.
- 甲状腺痛を伴わない甲状腺中毒症
- 2.
- 甲状腺中毒症の自然改善
- 【検査所見】
- 1.
- 遊離T4高値(さらに遊離T3高値)
- 2.
- TSH低値
- 3.
- 抗TSH受容体抗体陰性
- 4.
- 放射性ヨウ素(またはテクネシウム)甲状腺摂取率低値
診断
【確実例】
除外規定を満たし、臨床所見および検査所見の全てを有するもの
【疑い例】
除外規定を満たし、臨床所見の全てと検査所見の1~3を有するもの
【除外規定】
甲状腺ホルモンの過剰摂取例を除く。
- 【付記】
- (臨床所見について)
- 1.
- 甲状腺中毒症状は軽度の場合が多い。
- 2.
- 急性期の甲状腺中毒症が見逃され、その後一過性の甲状腺機能低下症で気付かれることがある。
- (検査所見について)
- 3.
- TSHは感度以上で基準値未満のことが多い。
- 4.
- 抗TSH受容体抗体(TRAb)陽性例が稀にある。
慢性甲状腺炎(橋本病)の診断ガイドライン
【定義】(コンセンサス)
慢性甲状腺炎(橋本病)は、自己免疫性甲状腺炎である。甲状腺組織に、①リンパ濾胞の形成,②甲状腺上皮細胞の変性(濾胞上皮の萎縮と好酸性変性),③結合組織の新生(間質の線維化),④円形細胞のびまん性浸潤(リンパ球浸潤)を認める。
【特記事項】
原発性甲状腺機能低下症の原因疾患として最も多い。
慢性甲状腺炎(橋本病)のうち、甲状腺機能低下症となるのは約1割である。
- 診断基準(コンセンサス)
- 【臨床所見】
- 1.
- びまん性甲状腺腫大(萎縮の場合もある)
- 【検査所見】
- 1.
- 抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)陽性
- 2.
- 抗サイログロブリン抗体(TgAb)陽性
- 3.
- 細胞診でリンパ球浸潤を認める
【除外規定】
バセドウ病を除く。
診断
【確実例】
除外規定を満たし、臨床所見および検査所見の1つ以上を有するもの
- 【疑い例】
- 1.
- 甲状腺機能異常も甲状腺腫大も認めないが、TPOAbまたはTgAb陽性のもの
- 2.
- 他の原因が認められない原発性甲状腺機能低下症
- 3.
- 臨床所見および甲状腺超音波検査で内部エコー低下や不均質を認める(リンパ球浸潤が示唆される)もの
- 【付記】
- (臨床所見について)
- 1.
- 阻害型抗TSH受容体抗体などにより萎縮性になることがある。
- (鑑別疾患について)
- 2.
- 甲状腺リンパ腫はまれな疾患であるが、ほとんどの場合慢性リンパ球性甲状腺炎(橋本病)を背景として発生する。
亜急性甲状腺炎(急性期)の診断ガイドライン
【定義】(コンセンサス)
亜急性甲状腺炎は、有痛性の破壊性甲状腺炎による甲状腺中毒症である。
【特記事項】
ウイルス感染との関連が示唆されている。ヒト白血球抗原(HLA)-B35と強く関連する。
診断基準(コンセンサス)
【臨床所見】
有痛性甲状腺腫
- 【検査所見】
- 1.
- 赤沈またはCRP高値
- 2.
- 遊離T4高値、TSH低値
- 3.
- 甲状腺超音波検査で疼痛部に一致した低エコー域
診断
【確実例】
規定臨床所見および検査所見の全てを有するもの
【疑い例】
規定臨床所見と検査所見の1および2を有するもの
【除外規定】
橋本病の急性増悪、嚢胞への出血、急性化膿性甲状腺炎、未分化癌を除く。
- 【付記】
- (臨床所見について)
- 1.
- 上気道感染症状の前駆症状をしばしば伴い、高熱をみることも稀ではない。
- 2.
- 甲状腺の疼痛はしばしば反対側にも移動する(クリーピング現象)。
- 3.
- 回復期に甲状腺機能低下症になる例が多く、少数例は永続的低下になる。
- (検査所見について)
- 4.
- TSHは感度以上で基準値未満のことが多い。
- 5.
- 抗TSH受容体抗体(TRAb)陽性例が稀にある。
- 6.
- 急性期は放射性ヨウ素(またはテクネシウム)甲状腺摂取率の低下を認める。
- (鑑別疾患について)
- 7.
- 細胞診で多核巨細胞を認めることが多いが、腫瘍細胞(未分化癌など)や橋本病(急性増悪など)に特徴的な所見は認めない。
改定記録
2022年3月1日 改定内容:「抗マイクロゾーム抗体」試薬終売のため
2022年6月2日 改定内容:改定方法の変更、他
2024年11月21日 改定内容:定義の追加、他